2021.09.17 お知らせ

シンポジウム:「言語類型論から見た「語」の本質」

同志社大学言語生態科学研究センターでは、科学研究費助成事業科研費(基盤研究(B):19H01261)および中日理論言語学研究会との共催で、下記の通りZoomオンラインにて研究発表会を開催いたします。ご多忙の時期とは存じますが、多くの方々のご参加をお待ち申し上げます。
 
日時:2021年9月19日(日)午後13:30から17:30まで
会場:Zoomオンライン
参加方法:氏名、ご所属を明記の上、同志社大学言語生態科学研究センター事務局までメールでお申し込み
     ください。
 
講演者及び講演題目:
シンポジウム:「言語類型論から見た「語」の本質」

渡辺 己(東京外国語大学AA研)
スライアモン・セイリッシュ語における語形成について:特に語根と語彙的接尾辞を中心に

堀 博文(静岡大学)
ハイダ語(北米先住民言語)の「語」について:動詞を中心に

由本 陽子(大阪大学)
日英語の複合形容詞類の形成メカニズムと意味解釈について

下地 則理(九州大学)
宮古語の複合語の語性(wordhood)について

秋田 喜美(名古屋大学)
オノマトペ動詞の意味と語性

沈 力(同志社大学)
形態素は意味を持つ必要があるのか:中国語の述語形式の形成を中心に

趣旨:
本シンポジウムは、類型論的に両極に位置付けられた複統合的言語と孤立的言語の語形成過程を記述し、膠着型言語の語形成と結び付けて、理論化し、「語」とは何かを明らかにすることを目的とする。人間が言語を使用する際、表現したい意味概念が無限にあるのに対して、脳内辞書に記憶される「形式」は自ずと制限される。孤立型言語では、記憶可能性を重視して、有限個の「形式」を形成するという低コストの初期設定が採用されるのに対し、複統合的・膠着的言語では、意味伝達の正確性を重視して、無限個の「形式」を形成するという高コストの初期設定が採用されると仮定できる。本シンポジウムでは、初期設定の異なる言語において、「語」は如何に形成され、言語表現でどのような役割を果たしているのかについて議論する。
 
発表概要:
セクション1「複統合的言語の語形成について」
 
渡辺 己(東京外国語大学)
「スライアモン・セイリッシュ語における語形成について:特に語根と語彙的接尾辞を中心に」
スライアモン語は北アメリカ先住民諸語のうちのセイリッシュ語族の一言語である。同言語は、いわゆる複統合語といわれるタイプの言語であり、一語(特に述語)の中に接辞法,重複法,超分節素などを施し、主語・目的語、アスペクト、時制、他動性、数などさまざまな概念を盛り込みうる。この中で、「語彙的接尾辞」と呼ばれる一群の拘束形式があり、身体部位(頭、顔、鼻など)、自然物(火、水、風など)や人工物(家、衣類、蓋など)など、多くは名詞的な概念を表す。語彙的接尾辞は語根に付き、その意味を拡張する。(例、「叩く-頭」が「頭を叩く」を意味する。)本発表では、この語形成について概説し、語彙的接尾辞と呼ばれるものが語根の一種だと考えられるかどうかについて考察し、合わせて語根とは何かについて考察する。
 
堀 博文(静岡大学)
「ハイダ語(北米先住民言語)の「語」について:動詞を中心に」
本発表では、複統合的といわれるハイダ語(北米先住民言語)の「語」の問題について動詞を中心に検討する。
 
セクション2「膠着的言語の語形成」
由本 陽子(大阪大学)
「日英語の複合形容詞類の形成メカニズムと意味解釈について」
複合語のうち、いわゆる「総合的複合語」と呼ばれるものについての研究は、これまでほとんどが動詞由来の派生名詞が主要部で、意味的には出来事や具体物を表すものに関する観察をもとに一般化がなされてきた。本発表では、形容詞(および形容名詞)が主要部である複合語、すなわち意味的には属性描写をする複合語、に注目し、これまでの一般化における問題点を指摘するとともに、特に日本語と英語の複合形容詞、および、日本語の形容詞と形容名詞の間に見られる違いから明らかになる複合語形成のメカニズムの多様性を示したい。
 
下地 則理(九州大学)
「宮古語の複合語の語性(wordhood)について」
本発表では、南琉球宮古語伊良部島方言の複合語、特に形容詞語根と名詞語根からなる複合名詞(例:japa-mucII「柔らかいもち(lit. やわもち)」)について、その語性(wordhood)を形態面,音韻面,統語面から多角的に検証する。
 
秋田 喜美(名古屋大学)
「オノマトペ動詞の意味と語性」
オノマトペは多くの言語で軽動詞構文を形成する。本発表では、「くよくよする」、「しっくりくる」、「かっとなる」、「すんなりいく」、「ぶうぶういう」といった日本語のオノマトペ動詞を例に、その意味と語性の関係を探る。
 
セクション3「孤立的言語の語形成」
沈 力(同志社大学)
「形態素は意味を持つ必要があるのか:中国語の述語形式の形成を中心に」
語形成の最小単位である形態素の本質は「意味を持つ」ことである。しかし、中国語の音訳語である「幽默(ユーモア)」は本来1つの形態素(1つの意味単位)であるにもかかわらず、「幽什么默呀(何がユーモアだ!)」のように,意味を持たないV(幽)とN(默)に分離されることがある。本研究では、このような例を取り上げなから、形態素の本質が「意味を持つ」ことなのか、あるいは「構成機能を持つ」に過ぎないことなのかについて議論を展開する。