2023.08.29 お知らせ

第59回 中日理論言語学研究会

講演者(敬称略)及び題目・要旨:
講演1
丸尾 誠(名古屋大学)
中国語の動補フレーズ“V坏了”の用法について -「何」が「どう」悪くなるのか-

形容詞が結果補語になった際の「意味的に指し示す文法成分」(“语义指向”)の1つとして、马真·陆俭明1997は“哭红了眼睛”[泣いて目が赤くなった]に見られるような、「当事者の体の器官や体のある部分」を挙げている。結果補語“坏”を用いた“哭坏了眼睛”も同様のタイプであるものの、この場合には泣くことが目にどんな悪影響を及ぼすのかが不明瞭であり、「泣いて目が悪くなる」といった因果関係を表現した日本語訳では「物足りなく」感じられる。一般化すれば、“V坏了”の表す結果とはどのようなものなのか、日本語訳に苦心することも少なくない。さらには“V坏了”が目的語をとらない形で用いられた場合であっても、中国語母語話者は体(の一部分)への悪影響を認識し得る(例:哭坏了/吃坏了)。本発表では行為や結果に関わる成分との関係を念頭に、“V坏了”の形を用いて表される悪影響という概念について考察する。
 
講演2
李 佳梁(東京大学)
既実現の運搬事象の言語化について-語順と“了1”を中心に-

中国語では、運搬事象をはじめとする使役移動は通常「運搬動詞」と「方向動詞」(直示系と経路系)の併用によって表出される。ところが既実現の運搬事象の言語化については少なくとも3つのパターン(構文)が存在する;動詞接尾辞“了1”を用いた場合は、移動物NPが直示方向動詞の前にも後ろにも生起可能であり(例:“递了刀来”“递来了刀”)、さらに移動物NPが直示方向動詞の後ろに生起する場合、統語上“了1”の使用は義務的ではない(例:“递来刀”)。本発表は、この3構文は常に交替可能ではないことと、それぞれの使用傾向を明らかにし、そのような使用傾向が形成する原因を探るものである。
 
講演3
蔡 維天(台湾国立清華大学)
談“是”字句中疑問念力的移轉現象

漢語中以“是”為中心語的繫詞結構(copular structure) 約略可分為三種(參見Mikkelsen 2005、程航 Cheng 2021):
I. 述語(predicational)用法:阿Q(是)我的助理
II. 指明(specificational)用法:我的助理*(是)阿 Q 
III. 對等(equative)用法:阿Q*(就是)那個助理、那個助理*(就是)阿Q
第三種用法的主語和賓語可以對調,表達邏輯上的對等關係,不在本文考慮範圍之內。我們關心的是前兩種用法和疑問詞“誰”的互動,常常可以觀察到一些有趣的念力移轉(force shift)現象。
本文希望能從句法、語意的角度出發,為上述繫詞疑問句的種種用法把脈,解析其後支撐語用的層系骨架。如此一來,我們便可在最大程度上結合內延語言(I-language)和外延語言(E-language)的研究,標定語法結構和使用的交界處及其互動機制,為實驗和應用面向的探索提供最明確也最可行的理設。